入社して数年が経ち、初めての部下ができたという方の中には「1on1ミーティングって何すればいいのだろう」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
社員のモチベーションやパフォーマンスの管理はもちろん、キャリア支援も目的として導入する企業も増えてきている取り組みです。
ですが、やり方を一歩間違えるとただの雑談に終わってしまうことや部下を萎縮させてしまうといった結果に終わってしまうこともあるのも事実です。
ここでは、そんな1on1ミーティングで、どんなことを意識して話せばいいのかを解説していきます。
1on1ミーティングとは
日本ではヤフーがいち早く導入したことで知られる1on1ミーティングはその名の通り、「上司と部下が1対1で話をする」という取り組みです。
同じような形で年に数回行われる「人事評価面談」と呼ばれる取り組みも日本ではよく実施されてきましたが、これは「部下の状態を把握しアドバイスをすることで改善を目指す」という目的で実施されるものになります。
一方1on1ミーティングでは、週に1回、隔週、月1などのペースでよりフランクな雰囲気の中で上司が部下の話を「傾聴」することが基本的な姿勢であり、「自身の経験と内省を以って成長を促す」ことが目的です。
「経験学習モデル」というフレームワークを通じて部下を成長させ、上司との交流の結果貢献意欲も向上できると言われており、変化の激しい現代において柔軟なスキルアップと離職率の低下を実現できる取り組みなのです。
1on1ミーティングをする目的とは
1on1ミーティングを行ううえで、どのような目的で行うかを理解しておくと、限られた時間でのミーティングを有意義なものにできます。
このようなミーティングの機会を設ける目的は「部下からの意見を聞く」「部下の成長を促す」「新たな事業の適任者を見つける」「従業員や社内の雰囲気を知る」ことです。
同じ環境で働いていたとしても、その環境をどう捉えているかは人によって異なります。
そして、それぞれの感じ方は、言葉で聞くまで分かりません。
1on1ミーティングでは、部下が持っている意見を聞いて理解し、業務の幅を広げていくために行われます。
部下からの意見を聞く
1on1の目的は、部下が業務で抱えている問題を把握し、解決方法を模索することです。
仕事の進め方や成果、人間関係など、部下はさまざまな悩みを抱えています。
そのような部下からの悩みや不満を明確にすることで、上司だけでは気づけなかった人材マネジメントのヒントを得られるでしょう。
ただし、ミーティング中、部下が自発的に素直に悩みを話してくれるとは限りません。
上司や一緒に仕事をしている同僚への遠慮や悩みなどを、他人に知られたくないといった気持ちなどから悩みを話してくれない人もいます。
そのため、ミーティングを実施する上司が、部下の悩みを上手く引き出せるかが重要になるでしょう。
部下が安心して悩みを話せる環境を整えて、ミーティングに臨む必要があります。
部下の成長を促す
1on1ミーティングの目的は、部下の成長を促すことです。
部下を成長させるためには、日々の業務をただこなさせるだけでは経験が足りません。
多くの部下は、業務での経験を上司と共有して一緒に考えることで、自分に足りない経験や視点を補って成長します。
上司の役割は、部下の業務を正しく評価したうえで、経験豊富な立場から部下とは違った視点でのアドバイスを行い、部下の気づきを促すことです。
部下が持っている能力を引き出すためには、ミーティングでの上司の的確な意見が重要になります。
ただし、このようなアドバイスを素直に受け止めてもらうためには、平素から部下との間に信頼関係を築いておくことが大切です。
信頼できない上司から偉そうなことを言われても、受け入れられず反発されてしまう可能性があります。
新たな事業の適任者を見つける
1on1ミーティングの目的は、新たな事業を始めるにあたって、開拓を任せるに足る適任者を見つけることです。
普段の業績に加え、ミーティングでのやり取りを通して、部下のスキルや経験、モチベーションなどをしっかりと把握することにより、適切な仕事を割り当てられるようにします。
特に、新たな事業の人材配置は、誰がその業務に向いているか未知数です。
ミーティングで、部下がいま興味・関心を抱いている分野や、モチベーションの有無を確認しておくと、人材配置をスムーズに行えるようになります。
ただし、ミーティングの際は、モチベーションの高さが口先だけのものでないか、スキルや能力があるかを見極めなければなりません。
本当にその事業に関わりたいと思っているか、業務を進める能力を備えているかを業績なども加味して、評価しましょう。
従業員や社内の雰囲気を知る
1on1ミーティングの目的は、従業員や社内の雰囲気について、部下からの印象を知ることです。
仕事のことに限らず、社員にとって居心地の良い職場環境を作るためには、普段から良いコミュニケーションを心掛ける必要があります。
しかし、メインの業務が忙しいと、なかなかコミュニケーションの機会を設けにくい場合もあるでしょう。
1on1ミーティングの機会は、部下と1対1でコミュニケーションを取れる貴重な時間です。
そのため、現在の職場環境について、部下からの印象や改善した方が良いと感じているポイントなどを聞き出せます。
また、コミュニケーション不足からの離職を防ぐ効果も期待できるでしょう。
ミーティングによって、普段のコミュニケーション不足を補うことが可能です。
1on1中に意識するべきポイント
このように導入に成功すれば大きな成果を期待できる1on1ですが、漫然と実施してもいい結果には結び付かずかえって部下の萎縮やコミュニケーションのすれ違いを生んでしまうこともあります。
そのため、「1対1で頻繁に話す時間を取る」という大雑把な理解では期待している効果をあげることができません。
1on1を有意義な時間にするために大切なことはたくさんありますが、まずは特に意識するべきポイント3つをしっかり押さえていきましょう。
自己開示をする
1on1ミーティングにおいて最も大事なことは、部下がさまざまなことを気軽に相談できる環境づくりです。
そのためにはまず、部下の自己開示が必要となります。
そして部下の緊張を解き自己開示をさせるためには、上司側の自分自身が自己開示をして見せることが前提となるでしょう。
時には自身の悩みや正直な気持ちを話すことや過去のミスやうまくいかなかった体験談などを交え、率先して自己開示をするような働きかけも重要となってきます。
この時気を付けるべきなのは、この自己開示に「教訓」や「自身が成功した解決方法」などの要素が必要以上に多くなってしまうと、自己開示ではなく講義的な側面が強くなりかえって部下を萎縮させる結果に終わります。
あくまで1on1では部下の話を「傾聴」することが中心にあるので、あくまで自己開示を促すためだ、ということを忘れずに取り組みましょう。
否定しない
1on1で部下の話を「傾聴」する際、その話や相手を否定しないというのも非常に重要なポイントです。
自分の話を否定されるという体験は、心理的安全性を損ね、仮に問題が解決したとしても信頼関係は失われるといった結果をもたらすこともあります。
特にプライベートでの悩みや仕事上のミスの話など、この場以外では話しにくいことを話してくれている時に否定をしてしまうと、それ以降の自己開示にも影響が出てきます。
もし考えが違った場合も、まずは一度否定せず受け入れるようにしましょう。
部下が話したいことを話し終え、それを受け入れてもらったという実感を持った後に、自分の意見などについて話をするようにすると良い結果を得ることができます。
目的を意識する
1on1ミーティングを実施する際は、ミーティングの目的そのものをしっかり意識することが大切です。
「もっと業務に打ち込んでほしい」「ぜひとも新事業に携わってほしい」と考えている部下がいたとしても、自分のしてほしいことや考え方、部下の話への感想を一方的に話しても意味がなくなってしまいます。
一方的にまくし立てることは、部下からの「この人は自分の話を聞いてくれない相手だ」という失望にもつながり、信頼関係の破綻を招きかねません。
先述した1on1ミーティングの目的をしっかりと意識し、双方向へのコミュニケーションを心掛けることが重要です。
まずは最後まで部下の話を聞くこと、意見を伝える際は言葉を選び、部下が自分で考えて飲み込めるようにすることを心掛けましょう。
雑談だけにならないようにする
1on1において雑談はとても大切な要素です。
部下を理解することや自己開示を促す効果も期待することができ、1on1において障害になる「緊張」をほぐすことができるのが雑談と言えるでしょう。
しかし、1on1が雑談ばかりになってしまうと貴重な仕事の時間を割いてまでやる意義を感じることが難しくなり、結果的に参加するモチベーションが下がることにつながります。
それまでに緊張をほぐし、安心感を得て会話をすることに成功していても、ほかの業務と比較して重要性が低いものという認識になってしまうと、部下が上司に「付き合っている」という状況が生まれ、1on1の目的を達成することが非常に困難になります。
そういった状況に陥らないために、上司側は事前にアジェンダを考えてテーマを設定できるようにしましょう。
記録をする
1on1ミーティングにはコミュニケーションを取る目的もありますが、より重要なのはミーティングの内容を業務に活用することです。
そのため、部下から話を聞いて会話をするだけで、中身を忘れてしまっては意味がありません。
ミーティングで話した内容は、しっかりとメモしておく必要があります。
事前に聞くことを決めておき、紙に項目を設けて、その都度記入できるようにしておきましょう。
自由記入欄も設けておけば、部下からの質問への返答以外に得られた意見も記入できるようになります。
記録を取るだけでなく、あとからきちんと見返して反芻するようにしましょう。
また、メモの内容は誰かに見られたり、メモ自体が他者の手に渡ったりしないように気をつける必要があります。
前回の面談内容を把握しておく
ミーティングの前には前回の記録を確認し、内容を思い出しておきましょう。
1on1ミーティングは、前回の面談内容で課題として挙げられた部分が、改善されているかを確認することも重要です。
そのため、前回の面談のメモなどをもとに、解消できたかを確認することが大切になります。
逆に、前回の面談の内容をまったく覚えていないと、部下からの不信感につながる可能性が高いです。
せっかくミーティングで悩みを打ち明けたのに、それを覚えていてもらえないのは、その部下に興味がないと言っているようなものでしょう。
課題を解決できているか評価するため、そして部下のことを気にかけていることを示し、信頼感を育むためにも、前回の面談内容を把握しておくことが大切です。
1on1ミーティングをより良くする方法
続いて、1on1ミーティングを成功させるために、企業が意識するべきポイントを紹介します。
1on1ミーティングは、現場だけでなく、会社全体で取り組むことが大切です。
また、ミーティング中に、言いたいことをしっかり言えるような信頼関係が求められます。
さらに、一度のミーティングで挙げられた課題が解決できているか確認するためにも、定期的に行うと良いでしょう。
1on1ミーティングの効果を最大限発揮するために、これらのポイントを押さえるのがベターです。
現場だけでなく会社全体で取り組む
1on1ミーティングをより良いものにしていくためには、現場の担当者に一任するのではなく、会社全体として機能するように整備する必要があります。
担当者に一任して放置しておくと、ミーティングそのものが目的になってしまい、本来のコミュニケーションや現場の環境に対する課題などの情報収集が上手くいきません。
また、現場の責任者が変わるタイミングで、行われなくなってしまうことすらあります。
そこで、推奨されるミーティングの内容について研修などを行い、ミーティングそのものを会社としてフォローしていくことが重要です。
ミーティングの頻度やテンプレートなど、円滑に進められるような手助けができる基準作りを進めましょう。
ただし、内容をガチガチに決めてしまうと、本来伝えられるはずだった意見が言えなくなる可能性があるため、注意が必要です。
信頼関係を築ける風土を作る
1on1ミーティングを成功させるためには、遠慮なく意見を言えるような信頼関係を築ける風土を作ることが大切です。
ミーティングの間のみならず、上司と部下の信頼関係は、部下の育成にも大きな影響を及ぼします。
せっかく上司が部下にアドバイスをしても、部下から信頼されていないと、その内容を反映してもらえません。
また、日頃から社内のコミュニケーションを密にしていけば、1on1ミーティングの際もより良いコミュニケーションを期待できます。
その結果、淡々と質問事項をやり取りするより、多くの情報を共有することが可能です。
ミーティングまでに信頼関係が築けていないと、上辺だけのやり取りしかできません。
職場環境を改善するための情報をたくさん得るためにも、信頼関係をしっかり築いておきましょう。
定期的に行う
1on1ミーティングを行う際は、一度きりで終わらせるのではなく、定期的に開催することが大切です。
職場環境の改善を目的とする場合は、一回だけのミーティングでは効果が薄く、定期的な周期で行うことでより効果を望めます。
特に、1週間に1回などの短い頻度で行うとPDCAのスピードも上がり、部下の成長スピードの向上が期待できるでしょう。
業務の忙しさによっては、あまりに短い頻度で開催することが難しい場合もあるため、その会社、その現場に適した頻度を見極めて開催する必要があります。
挙げられた課題の解決に、どれだけの期間がかかるかも加味して、次の開催時期を決めると良いでしょう。
また、ミーティングの冒頭で前回の内容をおさらいし、部下と認識のすり合わせをすると効果的です。
【テーマ別】1on1ミーティングで話すネタ5選
ここまでのお話で、1on1ミーティングとは何か、まずはどんなことを意識するべきかについてはご理解いただけたかと思います。
1on1は、短期的な視点では成果や効果を重視しないこともありますが、長期的に効果を高め、また参加する部下にとって有意義と感じられる時間を作るためには雑談だけに終始してはいけません。
実際にミーティングを行う中で、どんな話題を用意すればいいのかわからないという方のために5つの話すべき「ネタ」をご紹介します。
プライベート面
1on1は上司も部下も緊張しがちなものです。
そういった場合、まず会話のきっかけとしてプライベートな話題から導入するのは非常に効果的です。
話題が詰まった時に切り出せるように、フランクなテーマをいくつか用意しておくとスムーズに進めることができます。
週末の過ごし方、最近好きなコンビニエンスストアのスイーツや流行のものの話など、そこから部下の好きなものや興味関心についてわかる話題へと発展していけると、仕事から離れた一つの人格としての相互理解につながります。
お互いのことが理解できるようになっていくと、結果的に不安や緊張は緩和され、ほかの話題へと移りやすくもなるでしょう。
また、部下の興味関心の話から、気が合う人のタイプや苦手な人のこと、最近のプライベートな悩みなどを開示していくことで、より1on1が「なんでも話せる場所」になり、上司にとっても部下を深く理解する機会を得ることができます。
ただの雑談で終わってしまうことも多いプライベートの話題ですが、実際には多くの効果が見込める非常に重要な話題です。
心身の健康面
心身の健康面についての話題は、毎回のミーティングで盛り込むべき重要な話題です。
たとえば、最近疲れが溜まっていないか、体調の変化を感じていないか、仕事を持ち帰ったりしていないか、などを確認することで現在の業務量が適切かどうかを判断する材料にもなります。
また、職場内での人間関係なども把握しておくことで、トラブルや負荷を回避することも可能です。
そして普段の業務内で見ることができる範囲の外にも、ストレスの原因を抱えているケースが多くあります。
家庭におけるパートナーとの間の悩み、子どもを持つ家庭であれば親としての役割や負担を抱えていることもあるのです。
ほかにも両親の介護や、自身の趣味の活動の場でのトラブルなど、ストレスの原因は1on1のような閉ざされた場でしか他人に相談できないことも多くあります。
こういった、通常業務の中ではもちろん、人事評価面談や終業後の飲み会などの交流では発見できない問題を上司がいち早く把握し、適切なケアを行っていくことが大切です。
モチベーションアップ
モチベーションアップさせましょう、といっても漠然としていて実際にどんな話題で進めたらいいかイメージするのは難しいものです。
1on1では大きく分けて2つの側面から取り組みを進めていきます。
まず一つ目は、モチベーションを低下させる要因を取り除くという方法です。
たとえば、日々の業務において不安に思っていることなどについて話してもらい、可能な限り具体的な事柄まで開示してもらいます。
そうすることで、一緒に問題解決の方法を考えるというラインに立つことができるようになり、モチベーションを下げる要因を排除することができます。
2つ目は承認による信頼感の向上です。
社内での評判や普段の業務態度を褒めることや承認することによって、自分のことを見てもらえているという安心と信頼感を得ることができます。
これによって、実践していることがきちんと評価されているという実感が湧き、モチベーションの向上へとつながっていきます。
この「自分に時間を割いてくれている」「自分を見てくれている」という実感を得られるということが1on1の大きなメリットの一つでもありますので、しっかりとそのメッセージを伝えていきましょう。
業務や組織
緊急性のある業務に関する相談や締め切りが近いものなどは、通常の業務の中でも比較的上司に相談しやすい内容と言えます。
しかし、特に期限が設定されていない問題点や悩みというのは、なかなかタイミングを掴めず相談するのを後回しにしてしまうものです。
1on1は、こういった見落としがちな業務や組織の問題点を発見する機会としても有用です。
たとえば、普段の業務で困っていることはないか、チームとしてどんな課題を感じているか、人間関係に問題はないか、上司への要望の有無などを確認していきましょう。
こういった問題点や困り事は、個人の問題ではなく、会社組織全体の生産性を落とすことにもつながります。
また、個人レベルではなく組織として一つひとつの問題に対して真摯に取り組むことにより、より一体感が生まれ安心や信頼感を得ることができます。
一見、小さく緊急性が低く見える問題点であっても決して改善を怠らないようにしましょう。
目標設定と評価
1on1で話をすることによって、部下が今後どういった業務に携わりたいのかや、現状の業務や会社に対してどのような意見を持っているのかを率直に聞くことが可能です。
部下の視点と上司の視点、お互いの立場から見えていることを話すことで、より正確な現状把握を行うことができるでしょう。
上司の側から見た部下の現状について話す際は、否定が中心になることや「傾聴」の形から離れすぎないように注意してミーティングを進めましょう。
現状の把握が完了したら、今度は目標設定へと移ります。
目標設定は通常業務の成績や本人のスキルのみではなく、1on1を通じて理解した適正や健康状態、モチベーションを加味して適切な水準に設定します。
努力は必要だが達成は可能、というラインに設定できると効果的です。
そして、最後に目標を達成するには何が必要かを一緒に考えます。
この時に、あくまで部下が主導の問題解決を目指すこととなりますが、その助けとなる経験談やノウハウに関しては上司の方から提示してくるでしょう。
ここで良いコミュニケーションを取ることができると大きな信頼感を得ることができます。
おわりに
いかがだったでしょうか。
1on1ミーティングは会社として業務効率を向上させるのみではなく、しっかり理解したうえで取り組むことができれば部下にとっても非常にストレスが低い取り組みとなります。
上司の側が率先して準備を進め適切に実施することができれば、部下からの大きな信頼も勝ち取り安心感を与え、スムーズなチームの運営に直結することでしょう。
ぜひこの記事を参考にして話題を設定し、1on1ミーティングに取り組んでみてください。